Executive division

「あたたかい社会」の実現を目指して

Creation

COI東北の取り組み

和賀 巌 プロジェクトリーダー

COI東北の取り組み
センサで健康を測定し、身体の不調を早期発見

和賀:健康に関する社会的な課題を解決するために、大学と企業が連携して知恵を出し合うのがCOI東北の基本的な取り組みです。大学の国際競争力が問われる中、新しい日本の大学のあり方を模索するために文部科学省主導のもとでプロジェクトがスタートしました。

約80名の大学教授、企業メンバー、若手研究者と議論した結果、今の社会制度の延長で公的に健康を支援し続けるのは難しいというのが全員一致の見解でした。国や自治体の財政で健康が保証されない社会となると、自分たちで身体をケアしていかなければなりません。また、親しい人たちをあたたかくサポートすることも重要になります。医療費の無駄をなくして、普段の生活の中で自分や親しい人の身体の不調を早期発見し、助け合いケアしていく。このように、公的に期待できないものを「あたたかさ」で乗り越える社会を創生することが必要だと考えました。自分でケアできることは自分で対応した上で、家族や地域の人々がお互いを支え合う、「自助」と「共助」で成り立つあたたかい社会を目指しています。

永富:そのような社会を実現するために、東北大学では、生活の中で身体の不調や病気の要因を見つけることができるセンサの研究開発を進めています。例えば、肩こりや目のかすみ、身体のだるさなど日常のささいな不調をセンサで測り、そのデータを自分だけでなく親しい人にも共有することで、早期に身体をケアし病気を防ぐことが可能になるのです。幸せであるためには、不安がないことが何よりも大切になります。不安の原因となる身体の不調を早く見つけて解決してあげるプロセスを提供するために、研究している技術を社会に還元することが、人々の幸せにつながるイノベーションになると信じています。

和賀:センサーで自分の不調を知るというのは今でも行われていますが、人のセンサーを見て助けてあげるという「共助」の仕組みは世界中のどこにも例がありません。ビジネスモデルとしても非常に新しいのです。COI東北では「世界にないあたたかいもの」に挑戦していきたいと考えています。

中澤 徹 サブリサーチリーダー

日本では一人暮らしが増加していますが、イギリスやアメリカでも同様に「ロンリネス」が問題となっています。孤独による寂しさは、喫煙や肥満以上に病気につながるリスクが高いと言われています。これからの社会では、家族だけでなく社会や地域ぐるみでお互いを助け合っていかないと、健康にも幸せにも暮らせません。COI東北では「はかる、わかる、おくる」というコンセプトを掲げており、センサで測り、AIで体調の変化が分かり、その仕組みを企業や大学があたたかいプレゼントのように社会に贈る、という理想形を示しています。この仙台から、世界中のロンリネス問題に対して解決のインパクトを与えたいです。

中澤:私は医師の立場から、COI東北の取り組みを医学的に裏付けし、効率的な研究開発を行うためのアドバイスをしています。医療器具と健康器具には機能面での差があるように、医療業界には特有のルールがたくさんあるので、どこまで機能に落とし込むべきかの検証が必要なのです。他にも、糖尿病のセンサなら糖尿病専門の医師といったように、プロジェクトごとに専門の医師を紹介しています。COI東北の素晴らしい技術を社会に届けるためにも、医師ができることはたくさんあると感じています。

永富 良一 サブリサーチリーダー

東日本大震災の影響
東日本大震災を乗り越えて、一人ひとりの健康を応援

末永:COI東北では、東北メディカル・メガバンクというプロジェクトのデータも活用しています。このプロジェクトは東日本大震災をきっかけに生まれたもので、震災以降、何世代にもわたってゲノムを解析しています。人の体質は健康と深い関わりがあり、ゲノムは体質を決定づける上で重要な役割を果たすのです。

永富:東日本大震災の避難先で、教授たちと「私たちにできることは何か」を議論しました。その際、単に街を復旧させるだけでなく、学術という立場から困っている人たちを助けていきたいという思いで一致しました。公衆衛生として健康を支えるのは、必ずしも一人ひとりのためになるものではありません。だからこそ、一人ひとりの健康を応援できるようにゲノムのデータを活用することを考えています。震災で被った被害を覆していこうという願いは、COI東北のベースにもなっています。

末永 智一 リサーチリーダー

企業や大学がプロジェクトに参加した経緯
技術開発からマーケティングまで、異業種企業が集結

末永:COIプロジェクトに参加したきっかけは、東北大学ならではの特徴を活かして社会に貢献したいと考えたことでした。東北大学には、研究した技術を社会に活かす「実学尊重」というモットーがあります。健康に関わるゲノムの生体情報と、それを測るセンサ技術をミックスすることで社会に価値を還元できるはずだと思い、COI東北を立ち上げたのです。そして、プロジェクトの理念に共感してくれた百数十人の先生方がメンバーに加わってくれました。医学部や工学部だけでなく、研究所や経済学、法学、教育学などの教授も参加しており、非常に層の厚い組織となっています。

企業にも相談し、プロジェクトの最初の3年間は基盤研究に注力しようということになりました。センサ開発、医療データ、通信、エネルギー、情報・法律・経済という5つのグループで基盤研究を進め、社会実装が視野に入ってきた時点で、さらに企業へ声をかけました。技術の開発だけでなく、いかにして情報を展開しビジネスとして発展させていくかまで考えたプロジェクトだったので、多くの企業に共感いただき、ものづくりだけでなく情報、サービス、マーケティングなど様々な業界の企業が参加してくれることとなりました。

今では、サテライト大学として早稲田大学、東北学院大学、そして20数社の民間企業がCOI東北のプロジェクトに関わっています。それぞれの専門分野や強みを活かし、技術の社会実装に向けて取り組みを進めています。

COI東北が社会に提供できる価値
さりげないセンシングで、安心できるライフスタイルを提供

和賀:世界が抱える課題に対して、真正面からあたたかい科学技術を届けることがCOI東北の価値だと考えています。一人暮らしで健康に不安を抱える世界中の人々に対して、単にセンサを提供するのではなく、幸せに生きていくための「安心できるライフスタイル」を仙台から届けていきたいです。

永富:「さりげないセンシング」をコンセプトに、ユーザー体験として非常に自然な形を目指して研究を進めています。例えば私たちは、椅子とセンサを組み合わせたセンシング技術を研究しており、毎日椅子に座るだけで健康状態を計測することを可能にする研究を進めています。他の教授たちも、鏡を見たり、腕時計をつけたりするだけで健康を測るセンサを開発中です。このように、人間ドックや健康診断を受けなくても普段の生活で健康状態が分かるようになるので、健康を人任せにするのではなく、自分から健康になろうという意識づけができると考えています。人々が健康意識を高め、ヘルスケアのための行動に結びつけるような働きかけを、科学的根拠に基づいて行っているのです。

永富 良一 サブリサーチリーダー 稲穂 健市 戦略統括/URA

COI東北のプラットフォーム作りについて
東北大学をハブに企業同士が連携し、シナジーが生まれる

稲穂:COIプロジェクトの大きな目標に、プラットフォームが持続的なイノベーションを創出し続けられるようにすること、があります。大学では素晴らしい数々の研究実績が出ていますが、それらを社会実装していくのは得意としていません。そこで、企業と連携して技術を社会に広げることでイノベーションを起こし、継続的に活動を行えるようにしているのです。また、JST(科学技術振興機構)の委託事業であるCOIプロジェクトは国の予算で行っていますが、それだけではどうしても限りがあります。様々な企業と連携するプラットフォームを作り、共同研究によってリソース面での援助を受けられるようにすることで、持続的な研究を可能にする仕組みづくりを進めています。

このプラットフォームは、企業にも大きなメリットをもたらしています。従来、大学と企業の共同研究は一対一で行われるものでした。しかしCOI東北では20数社もの企業が集まっているので、東北大学をハブにして、今まで関わりのなかった企業同士で新たなコラボレーションが生まれています。例えば、良いサービスや技術があるのに販売ルートを持っていない企業と、そのサービスや技術のニーズが高い顧客を抱える企業のマッチングなどです。全く異なるビジネスをしている企業がつながることでシナジーが生まれ、より付加価値の高いビジネスを展開できるようになっています。

Task

COI東北の課題

東北大学ならではの方法で、世界一になりたい

和賀:研究やイノベーションといった大学の活動には答えがありません。その中で、どうすれば一番になれるのかを模索しています。COIプロジェクトは、スタンフォード大学のようなグローバルトップの大学の周りに若くて元気なベンチャー企業が集まっているようなアメリカ型のイノベーション拠点がお手本となっているようです。しかし、日本の大学とアメリカの大学は少々異なり、ベンチャーを作って儲けようという風潮はそこまで盛んではありませんでした。東北大学には実力のある先生がたくさんいますし、素朴であたたかいものが生まれるような先生ばかりです。シリコンバレー流のビジネスモデルで世界一を狙うのではなく、東北大学ならではの社会実装やり方でも、トップを狙う方法があるのではないかと考えています。

末永:現在プロジェクトは第3フェーズの仕上げ段階に入ってきており、社会実装に向けての取り組みの比重が高まっています。第1フェーズの基盤研究は大学が中心ですが、社会実装は企業が中心になるため、プロジェクトを発展させるために大学がすべきことを考えなければなりません。また、若手研究者の育成にも課題があります。COI東北の若手研究者は非常に活躍しており、先端的な研究でイノベーションに貢献してくれています。そのサポートも手厚く行っていますが、この体制をいかにして継続していくかは検討していく必要があります。

中澤:未来型医療では、患者の悪いところを低コストで適切に治療する「個別化医療」と、ヘルスケアのために運動やメンタルケア、食事改善などを行う「個別化予防」が重要になります。医療コストを最小限に抑えるためには早期介入・早期治療がいいと言われていますが、過剰治療になってはいけません。未病と病気の線引きをどうするかという具体的なエビデンスづくりは、医師がすべき領域です。そのためにも、COI東北のプロジェクトに、より多くの医師が積極的に関わっていかなければならないと感じています。

Future

今後の展望

ヘルスケアの世界的拠点を、仙台に

永富:COI東北では、医療や介護ではない本当の意味での健康産業の創出を目指しています。皆が安心して幸せに暮らせる環境を提供するとともに、そのための研究開発に取り組む若手研究者が力を発揮できる場を作っていきたいです。

中澤:健康、未病、病気という一連の流れが数値化され、一つの連続体として健康が分かる状態になることが理想です。この仕組みは、COI東北が開発を進めているセンサ技術によって実現できるのではと感じています。また、AIが病院での受診をアドバイスすることで、早期治療のきっかけにもなると考えています。医師は患者が病院に来るのを待っているだけでなく、早期治療に積極的に関わっていかなければなりません。そのためにも、COI東北の取り組みを通して医療と社会を変えていきたいと思います。

和賀:これからの日本の財政の大きな懸念要因の一つは、膨れ上がる医療費にあります。これからは何でも医療に頼るのではなく、自助と共助で人々が幸せにのびのびと暮らしていける基盤を作ることが重要です。COI東北はその基盤づくりの重要な役割を占めているという、大きな使命感を持っています。体調を崩したときに「この薬を飲みましょう」という従来の対処とは全く異なる、新しい健康のコントロール方法を作る拠点になりたい。そのような夢を持って、これからもプロジェクトの活動に取り組んでいきたいです。

Message

和賀巌

和賀巌

Message 01
和賀 巌
拠点長・プロジェクト統括(PL)
NECソリューションイノベータ(株)
プロフェッショナルフェロー

一つの企業ができるサービスには限りがありますが、COI東北の中に入り、異業種の企業と語り合うことで、ワクワクできる新しいアイデアがたくさん生まれてきています。このアイデアを形にして社会に届けるために頑張っていますので、応援よろしくお願いします。

末永智一

末永智一

Message 02
末永 智一
研究統括(RL)
環境科学研究科
教授

COI東北を、将来を担う若手研究者が活躍できる拠点にしていきたいです。ヘルスケアは若者にとっても重要な課題です。ぜひ、一緒に活動していきましょう。

永富良一

永富良一

Message 03
永富 良一
副研究統括
医工学研究科
教授

幸せで安心な生活は、子どもからお年寄りまで皆が享受すべきものです。COI東北の取り組みはヘルスケアだけでなく、教育も含めて社会全体が変わっていくきっかけになることを信じています。

中澤徹

中澤徹

Message 04
中澤 徹
副研究統括
医学系研究科・大学病院
教授

バックフューチャーをコンセプトに、あるべき未来から逆算して活動しているので、医師としても視野が格段に広がります。素晴らしい社会を実現するためにも、より多くの人にCOI東北の取り組みへ興味を持ってもらいたいです。

稲穂健市

稲穂健市

Message 05
稲穂 健市
戦略統括
URAセンター
特任准教授(上席URA)

COI東北を拠点に価値創出することで、社会や人を変えるムーブメントを起こしたいです。閉塞感が漂う日本社会でも、一人ひとりが希望を持っていきていける社会になることを願っています。

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