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Interview 01
24時間いつでも
スマートウォッチで血圧測定
研究
リーダー
流体科学研究所/学際科学フロンティア研究所
Research
COI東北拠点にて研究を行っている各研究者より研究内容をご紹介します。
血液のダイナミックな流れを計測する仕組みが「血流動態センシング」です。全身の循環器系を数学的に表し、心臓はポンプ、血管はゴムのような弾性のある容器、血管と血管を結ぶ細い血管は抵抗として、流体力学を使い血液の流れをモデル化します。ポンプである心臓が動くに従って血液が血管としての容器に送られると、容器がふくらむとともに圧力が上昇。その圧力によって細い血管を通して下流の容器となる静脈に流れていく、というのが血液循環の動きです。しかし、人の身体は自律神経でコントロールされているので、その点も考慮しなければなりません。臓器が血液を必要としている時は細い血管が開いて血流がよくなるといったように、心拍数が多い時の自律神経の働きと、抵抗の動きがどのようにコントロールされるかをモデル化します。そして、このモデルを用いて心拍数から血圧を計算するのです。
今は、スマートウォッチを使えば心拍数を簡単に計測できるようになっています。そこに血圧を計算するプログラムを組み込むことで、24時間常に血圧を推定することが可能になります。人によって血管の硬さや抵抗が違うので、平常時の最高血圧と最低血圧、脈拍を設定。スタートボタンを押すだけで、数秒で計算された血圧が表示されます。今でもカフを巻いて一定時間おきに血圧を計測することはできますが、身体への負荷やストレスが大きく現実的ではありません。それが、腕時計を巻いているだけで毎日常に血圧を測れるようになるのです。
Research
実現の鍵となる研究開発テーマをご紹介します。
血流動態センシングの開発のきっかけは、スマートウォッチなどで簡単に心拍数を測れるようになった昨今、血流のモデルを組み込むことで血圧を測定できるようになるのではないかと考えたことでした。元々は流体力学が専門でしたので、身体の血液の流れをモデル化する研究は以前にもやっていました。そして、約3年前からスマートウォッチを用いた血圧測定の研究をはじめました。流体力学は通常、スーパーコンピューターを使わなければならないほど膨大な計算量を伴います。しかし、血圧のモデルはそこまで複雑な計算ではないので、スマートウォッチにもプログラムを組み込めると思いました。カフのように締め付けが強くなく、日常的に身につけることのできるスマートウォッチは、身体への負担が少なくストレスフリーで血圧を測定でき、常に健康を意識することが可能になります。
現時点では血圧を測定した後の活用方法は検討段階なのですが、世界的に見ても24時間にわたり血圧のデータを集計した事例はほとんどないため、新しい病気の発見につながるかもしれません。今は学生に協力してもらい、血圧推定値の精度の検証をしています。そこで改めて分かったのは、健康な人の大半は自分の平常時の血圧を知らないということでした。確かに健康診断で計測はしていますが、毎回数値が異なるので覚えていられません。一方で、高血圧のリスクはテレビなどでも盛んに言われています。130以上が高血圧ということがガイドラインで決められていますが、これも決まった時間で規則的に血圧を測定しなければ分かりません。健康な人はそれだけ頻繁に血圧を測るというのが現実的ではないですが、スマートウォッチなら時計を確認する感覚で自分の血圧を把握することができます。そして、血圧を通して自分の身体や健康を意識できるようになると考えます。
また、スポーツでも活用できるでしょう。今でも脈拍を確認しながら運動するのは一般的ですが、心拍数と血圧は必ずしも比例するものではないのです。心拍数が上がっても、血管が開くことで血圧が下がるというケースもあります。スポーツをしている時の血圧が常時モニターできるようになれば、運動時の健康管理や身体機能の向上につながるのではないでしょうか。
手軽に連続して血圧を計測できることが世界に広がり、世界中の人々が健康を意識できる健康社会になってほしいと願い、今後も研究開発に励んでまいります。
Outlook
普通に生活する中で、普通に血圧が把握でき、自分の健康を自然に意識できるようになる社会を目指しています。将来的には、日々の血圧をデータベース化することで、スマートウォッチが健康に関するアドバイスを行える状態を目指しています。COI東北のプロジェクトでは、血流動態センシングを世の中に広げて実用化するために、企業と連携する動きも出ています。また、医師と連携して病気の診断に使えるかどうかを相談しています。基本的に、アプリが搭載できるスマートウォッチであれば血流動態センシングを使うことが可能です。血圧測定以外のヘルスケアアプリと連携することで、新しいサービスができる可能性もあるでしょう。血圧の測定が身近なものになり、ヘルスケアへの意識が向上して皆が健康に過ごせる社会の創生を目指しています。